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ICSをどう守る? ~産業用ネットワーク特有の課題とその対処法を解説~

作成者: OT/IoT セキュリティ|May 2, 2025 7:33:49 AM

なぜ今、ICSの防御が急務なのか

産業システムのネットワーク化が進む現在、産業用制御システム(ICS)のサイバーセキュリティ強化はこれまでになく重要性を増しています。エネルギー、水処理、製造、輸送などの重要インフラは、ICSネットワークによって安定した運用が維持されています。

しかし、こうしたシステムは今やサイバー犯罪者や国家主導の攻撃、ランサムウェア集団の格好の標的となっており、多くの攻撃が、産業システムを対象とした既知の戦術や手法をまとめたMITRE ATT&CK Framework for ICSに沿ったパターンで行われています。

従来のITネットワークとは異なり、ICS環境には固有の課題が存在し、それに対応する専門的なセキュリティ対策が不可欠です。ICSネットワークに対するたった一度のサイバー攻撃が、操業停止、莫大な経済的損失、環境への影響、さらには人命への危険といった重大な結果を招く可能性があります。

こうした脅威の高度化に対応するためには、産業組織も従来の防御型のアプローチから脱却し、回復力と迅速な復旧を重視する体制へと転換していくことが求められています。

ICS(産業用制御システム)とは?

ICSとは、産業プロセスの自動化と管理に用いられる制御システムの総称です。SCADAシステム、DCS、PLCなどが含まれます。エネルギー、水処理、製造、重要インフラなど、さまざまな分野で広く使用されています。

ITシステムとは異なり、ICSはバルブの開閉や温度調整、生産ラインの監視といった物理的なプロセスを直接制御しています。そのため、ICS環境でセキュリティインシデントが発生すると、社会全体に深刻な影響を及ぼす可能性があり、サービスの停止や設備の損傷、さらには人命に関わる事故を引き起こすリスクもあります。

ICSセキュリティはITセキュリティと何が違うのか?

1. レガシーシステムと旧式技術の存在

多くの産業施設では、サイバーセキュリティを前提に設計されていないレガシーシステムが今なお使用されています。こうしたシステムは、IT環境のように定期的なアップデートが行われることが少なく、数十年前のソフトウェアが使われ続けているケースもあります。そのため、基本的なセキュリティ機能すら備わっていないことも珍しくありません。さらに、これらのシステムは運用の中核を担っているため、簡単に交換や停止ができないという制約もあります。

2. 常時稼働が求められる環境

ICSは、ITシステムと異なり、24時間365日止まることなく稼働し続ける必要があります。定期的なメンテナンスやセキュリティパッチの適用であっても、システムの一時停止は許容されず、運用停止による損失は極めて大きくなります。そのため、通常のサイバーセキュリティ対策を導入することが困難な場合も少なくありません。

3. ITとOTの融合による攻撃対象領域の拡大

ITとOTの統合が進むことで、産業現場の効率化やデータ活用の高度化が可能になりましたが、その一方で、ICSは従来の閉鎖的な環境から脱し、クラウド監視、リモートアクセス、IoTデバイスの導入といった新たな接続環境により、サイバー攻撃にさらされる機会が増えています。こうした新しい脅威に対してICSは脆弱であり、攻撃を受けた際の影響はITシステム以上に深刻となる可能性があります。

ICSネットワークが直面するサイバー脅威

1. ランサムウェア攻撃

ICS環境における最大の脅威の一つがランサムウェアです。攻撃者は制御システムに侵入し、重要ファイルを暗号化したうえで、復旧のための高額な身代金を要求します。IT環境とは異なり、OT環境では長時間のダウンタイムが許されないため、支払いに応じてしまうケースが多く見られます。

2. 内部関係者による脅威と人的ミス

ICSセキュリティにおいて最も見落とされがちなリスクのひとつが「内部脅威」です。これは、意図的な破壊行為だけでなく、誤設定などの偶発的なミスも含まれます。多くのサイバーセキュリティインシデントは人為的なミスによって発生しており、脆弱なパスワードの使用、未適用のセキュリティパッチ、制御システムへの不正アクセスなどが原因となっています。

3. サプライチェーンの脆弱性

産業分野では、機器やソフトウェア、保守作業などを多数の外部組織に依存しています。こうした中で、たった1社のサプライヤーが侵害されるだけで、マルウェアや脆弱性がICSネットワーク全体に持ち込まれる可能性があります。
2021年のSolarWinds攻撃は、サプライチェーンの侵害がいかに大規模なサイバースパイ活動や破壊行為に利用され得るかを浮き彫りにしました。

強靭なICSセキュリティ体制を構築するには

1. エアギャップ型復旧ソリューションの導入

ダウンタイムが許されない産業環境では、高速かつ自動化されたエアギャップ型の復旧ソリューションが不可欠です。従来のバックアップは常時オンライン状態であることが多く、攻撃者によって改ざん・暗号化されるリスクがあります。
Salvador Technologiesは、システムをわずか30秒で復旧可能な業界最速クラスのソリューションにより、ICS環境における迅速な業務再開を実現します。

2. ネットワーク分離とアクセス制御の徹底

ゼロトラストのセキュリティモデルを取り入れ、ITとOTのネットワークを明確に分離することで、攻撃者による水平移動(ラテラルムーブメント)を防止します。
さらに、ロールベースのアクセス制御(RBAC)を導入することで、重要な制御システムへのアクセスを必要最小限の関係者に限定し、内部からのリスクを低減します。

3. セキュリティ監査と脆弱性評価の定期実施

多くのICSネットワークでは、十分な脆弱性評価やペネトレーションテストが行われていないのが実情です。定期的なセキュリティ監査を通じて、攻撃者に狙われる前に潜在的な弱点を特定し、リスクに対する事前の対策を講じることが重要です。

4. リアルタイム監視と脅威検知の導入

AIを活用した異常検知システムや侵入防止システム(IPS)を導入することで、サイバー脅威の兆候をリアルタイムで察知し、被害の発生を未然に防ぐことができます。システムの挙動を常時モニタリングすることで、早期対応が可能となり、運用への影響を最小限に抑えることができます。

ICSセキュリティの今後:「防御」から「復旧」の時代へ

現在、サイバー攻撃は「いずれ起こる」ものではなく、「いつ起きるか」が現実的な課題となっています。多くの企業が依然として予防策に重点を置いていますが、今日の高度化する脅威環境においては、それだけでは十分とは言えません。今、本当に優先すべきなのは、被害発生を前提とした「迅速な復旧」です。

産業環境におけるオペレーションの継続性は、ダウンタイムの最小化、重要システムの保護、そしてサイバー攻撃からのスムーズな復旧を実現するうえで極めて重要です。従来型のバックアップソリューションでは、攻撃発生後の復旧に数時間から数日を要することが多く、ICSを運用する組織にとっては深刻な被害へと直結しかねません。
Salvador Technologiesの特許取得済みリカバリーソリューション「CRU」は、わずか30秒での完全復旧を可能にすることで、このリスクを解消し、業務への影響を最小限に抑えます。

まとめ:ICSサイバーセキュリティ戦略の強化に向けて

重要インフラや産業ネットワークに対するサイバー脅威が拡大の一途をたどる現在、従来型のITセキュリティ対策だけではもはや十分とは言えません。ICS環境においては、サイバー攻撃の発生を前提とした復旧体制を構築し、重要な資産を守りながら、業務の継続性を確保することが不可欠です。それこそが、これからのICSセキュリティに求められる備えと言えるでしょう。

 

原文記事URL:https://www.salvador-tech.com/post/ics-cybersecurity-addressing-the-unique-challenges-of-industrial-networks